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魔法つかいプリキュア! 色 出演者 備考 黄色 朝日奈みらい/キュアミラクル(声:高橋李依) 水色 十六夜リコ/キュアマジカル(声:堀江由衣) 緑色 -
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動物が好きな彼女に喜ばれるデートコースといったら、動物園か水族館。 紫外線の多いこの時期は断然、水族館。 天候に左右されないということもあるし、館内は空調が完備されているから快適ということもある。 それに、水族館内は照明が落とされていて薄暗いから、手を繋いだりしても人目が気にならない。 誘った方のアタシが水族館の入場料を払う代わりに、昼食はブッキーの手作り。 午前中は混雑を避けて先にイルカショーを見て、お昼ごはんの後は館内の展示生物を見る。 アタシのデートプラン、完璧! ・・・ただ、一つだけ、心配なことがあるとすれば、 水族館にはアタシが苦手なアレがいるだろうということ。 アレは八本足で、西洋では悪魔の魚と呼ばれているらしい。 そう、アタシはタコが嫌い。嫌いなんかを通り越して、怖い。 アレがいそうな場所というと、日本の近海の生物を展示してある所。 身近な魚介類が多くて日本のどこでも獲れることができる、マダコもいるかもしれない。 それと、魚類以外が展示してあるコーナーにも、タコがいる可能性が高い。 珍種のクラゲなど珍しい水棲生物がいるみたいで、インターネットで調べたけど、 どこに何が展示されているのかまでは、はっきりと分からない。 だから、アレによって、折角のデートが台無しになるかもしれない。気を付けなければ。 デート当日は、日ごろの行いが良かったからか、雲ひとつない快晴。 水族館は屋内だけど、イルカショーは屋外だし移動を考えると、雨より晴れの方がいい。 開館時間とほぼ同時に入館し、特に場所を取る必要もなく、一番早い回のイルカショーを見ることができた。 輪をくぐったり高い所にあるボールに触れたりするイルカたちに子どもの様に大きな歓声を上げ拍手を送る。 屋外にはペンギンやアシカがいるプールもあって、こっちが終わったら次はあそこという感じに、 イベントがある時間も少しずつずらしてあって、効率良く見ることができるように工夫されている。 逆にいえば、そういうイベントの時間は他の場所は空いているから、人ごみは避けてゆっくり観てまわった。 屋外展示をほぼ観終わると、日差しも強くなってきて、日陰の休憩所で少し早いお昼を取ることにした。 お昼はブッキーの手作りのお弁当、雑穀米を使ってあって野菜の彩りも良いヘルシーなもの。 メインがタコライスで、タコさんウインナーなど、何故かタコづくし。 タコとついているものの、タコライスにはタコが入っているわけじゃなく、 メキシコ料理のタコスを、トウモロコシで作ったトルティーヤではなくライスを使った沖縄料理。 屋外ではお弁当が傷みやすいから、スパイスの効いたタコライスという、チョイスなのだろうけれど。 アタシならネーミングにタコが入っているという理由もあるけど、 お弁当にタコライスは絶対に考えつかない。でもまあ、美味しいけど。 あれこれ思いつつも美味しくお昼ご飯を頂いて、午後からは館内の展示を見る。 屋内に入ってすぐの展示は、近海に住む魚達のコーナー。 大きな回遊式の水槽に、お魚屋さんでも良く見かけるお馴染みの魚が泳ぐ。 あまり関心のないアタシが見ると美味しそうとか、関係の無いことばかり頭に浮かぶのだけど、 ブッキーは真剣そのもので、水槽の中を悠々と泳ぐ魚達を見ている。 そういえば、魚屋さんに売ってる魚が多いってことは・・・・アレもいる? 大きな回遊魚に混じって、八本足のあの黒い影。 「ブッキー、こっちこっち。面白い魚がいるよ」 「まだ観てたのに。美希ちゃん、早い」 ブッキーの手を強引に引っ張って、淡水に棲む生物の展示コーナーに進む。 淡水に棲むタコはいないから安心して観ることが出来るのだけど、 海の魚と比べて色彩に乏しく身近な魚が多いからか、観ていて楽しいものは少ない。 ブッキーの手を引っ張ったまま離してはないから、今も手を繋いでいるってことを忘れていた。 足早に進んできたけれど、ブッキーがゆっくり観られるように速度を緩める。 繋いだ手も離そうとしたけれど、ブッキーが握り返してきた。 幸い、人気がないコーナーであるせいか人も少なく、そのまま手を繋いで観てまわった。 淡水魚のコーナーを過ぎると、水の中の生物と触れ合えるコーナーで、 ヒトデやエビなどの水槽の中の生物に触ることができて、子ども達には人気があるコーナーだ。 その中でも目玉の一つがドクターフィッシュと呼ばれる魚で、水槽に手を入れると、手に寄ってきて皮膚の古い角質を取ってくれる。 歯が無いため肌に触れても痛くなくてくすぐったい程度で、海外では皮膚病の治療に使われているらしい。 ドクターフィッシュがいる水槽に二つ大きな穴があって、ブッキーとアタシそれぞれ一つずつ中に手をいれる。 手を入れるとすぐ、全長10センチ程の小さな魚がたくさん手に群がってくる。 同時に入れたのに、ブッキーの方は少なくて、何故かアタシの方にばかり魚が寄ってくる。 手のケアは完璧!・・・・なはず。ちょっとそこ、何で笑っているの? 軽くヘコんだけど、楽しそうなブッキーの顔を見ると、気分が少し浮上してくる。 触れ合いコーナーには別の水槽もあって、浅くて岩などもあり、自然を模した作りになっていて、魚やヒトデなどがいる。 逃げ足?の速い魚もいるけれど、大抵の生物は動きが鈍くて小さな子でも捕まえることが出来る。 この水槽だけ時間がゆっくり流れているようなそんな中で、何かが物凄いスピードで動いている。 足を縮めて身体を丸め、弾丸のようにこちらに向かってくる。 岩と同化していたから気付かなかったけれど、あの八本足の黒い影はアレだ。 「ちょっ、ちょっと、こっち来て、ブッキー」 「えっ、美希ちゃん・・・・待って」 少し不自然な離れ方だったけれど、ブッキーは何も言わない。そのまま順路に従って進むと、次は深海生物のコーナー。 深海は光が届かなくて暗いから、展示コーナーも照明が落とされて真っ暗だ。 水槽の中は赤光に照らされていて中の生物が見えるけど、周りが暗いから覗きこまないと見えない。 人気があるコーナーには思えないのだけれど、人垣ができている水槽があった。 自分達の順番がきて水槽を覗きこむと、ふわふわと何かが水中を泳いでいる。 クラゲやナマコのような形で、UFOが浮かんでいるようにも見える様は、 決して可愛いとは言えないが、癒し系で愛嬌があって、キモかわいいといった感じだろうか。 赤黒い体色は、なんとなく、アレを彷彿とさせるけれど・・・ 「珍しい。メンダコね」 「メン・・・ダコ?!」 「うん、メンダコ。メンダコは飼育するのが難しくて、水族館でも・・・・・美希ちゃん!?」 タコだと知らない前に、少しでも可愛いと思えたことが信じられない。 アタシの名前を呼ぶブッキーの声が聞こえたけど、逃げることしかその時のアタシの頭になかった。 全力疾走で館内を通り過ぎると、行き交う人々が怪訝の表情でこちらを見る。 後で考えると凄い形相で走っていたんだろうけど、この場から離れたくて、とにかく走る。 あそこのコーナーを曲がり、直線を進むと見えてくるゲート。そこをくぐるとゴール・・・ ・・・ではなくて、すでに水族館の敷地から出てしまっていた。 水族館に再入場するには再びチケットを購入するしかなく、中学生の小遣いではかなり厳しい。 それに、タコがいるあの場所に戻るのは気が進まない。というより、行きたくない。 ラブやせつなならまだしも、タコが怖いことを一番知られたくない、ブッキーに知られてしまうなんて。 事前にタコがいそうな場所を調べておいたのに、深海魚のコーナーは盲点だった。 数分遅れて、ブッキーが館内から出てきた。 他にも観る所があったから、自分には構わず観てればいいと思うけど、迷わずアタシの所に来てくれた。 そのことは嬉しいけれど、同時に、ブッキーにアタシの顔を見られたくない。 だって、今のアタシは全然、完璧じゃない。 入口近くにある自動販売機からスポーツ飲料を買ってきて渡してくれた。 いつもなら甘いものはあまり口にしないのだけど、今は糖分が欲しい気分。 ベンチに座ったアタシの隣、一人が座れるくらいのスペースを開けて、ブッキーが座る。 辺りには誰もいないから、ベンチにはスペースの余裕があるのだけど、 いつもだったら、スペースがあろうとなかろうと、肩が触れ合うような間隔で座る。 今のアタシとブッキーの距離はそのまま、心の隔たりであるような気がして、心が沈んでくる。 ブッキーに貰ったペットボトルのふたを開け、スポーツドリンクを喉に流し込むと、 冷たくて甘い液体が身体に沁みわたり、気分が少し落ち着いてきた。 「格好悪いでしょ、アタシ。タコが怖いなんて」 「美希ちゃんは格好悪くない!」 「・・・・・美希ちゃんは、格好悪くなんかないよ」 ブッキーの強い語気にアタシも少し驚いたけど、言った本人の方も驚いたのか、小さい声で言い直す。 「うん。ありがとう」 「わたしの方が格好悪いよ。獣医さんになりたいのに、以前はフェレットが苦手だったし」 そういえば、ブッキーはフェレットが苦手で、最初の頃はタルトのことを避けていたんだった。 でも、動物と姿が入れ替わるというラビリンスからの攻撃で、ブッキーとタルトが入れ替わって、 結局、姿は元通りに戻って、ブッキーはフェレット嫌いを克服することができたんだっけ。 「それに・・・・」 「それに?」 ブッキーが少し言い淀んだ後、顔を上げてアタシを見つめて言う。 「それに・・・美希ちゃんはたこが嫌いなのに、わたしの為に水族館に誘ってくれたのが、嬉しい」 「ブッキー・・・・」 なんだか、ちょっといい雰囲気。 周りには人影もないし、手を握って、ブッキーを引き寄せて、そのまま・・・ グ~~~~~ 雰囲気を一変させる音は、アタシのお腹から。 水族館の外で、辺りは静まり返っているから、お腹の音はブッキーの耳にも届いただろう。 なんか本当に、今日は格好悪い所ばかり、ブッキーに見られてる。 「美希ちゃん、ごめんなさい。今度、オーディションがあるから、お弁当少なめにしたの」 確かに、タコライスは美味しかったけど、量が少なかった気がした。 それと、昼ごはんを食べた後は、何処にアレがいるかと極度の緊張の連続で、 しかも、全速力で水族館を一周したから、お腹が減ってもおかしくない・・・のかも、しれない。 「何か食べるもの、買ってくるね」 「ブッキー、待って・・・」 いらないと伝えようとしたけど、既にブッキーは走り出していた。 水族館の入口の近くに出口があり、入口の反対側には屋台のようなお店が何件か並んでいる。 お昼時間であれば沢山の人で賑わっているが、今は昼を過ぎているせいか人の姿はない。 「えっと、確かこの辺に・・・・あ、あった。おじさん、たこ焼き下さい」 だから、タコは嫌!! 了 ~おまけ~ 「美希ちゃんに問題です。魚へんに喜ぶと書いて何というでしょう」 「魚へんだから、魚の名前よね。喜ぶだから・・・めでたいで、タイ?」 「ブー」 「ヒントはよく食べられている魚です。でも、美希ちゃんはあまり食べないかも」 「サケ、いわし、あじ、さば、さんま・・・・」 「ブー、全部不正解です」 「分かんない。正解を教えてよ、ブッキー」 「正解は・・・恥ずかしいから、美希ちゃん、目を閉じて」 「うん、分かった」 と言ったものの、恥ずかしいと言った意味が分からない。 言われるまま目を閉じると、唇にふわっとした柔らかい感触。 キスされたと気付いた時には、ブッキーが離れてしまっていた。 正解できなくて少し悔しかったけど、これが罰ゲームというなら、 また、クイズが不正解でもいいかなって思う。 「ところで、さっきのクイズの正解は?」 「さっき、口にしたけど」 「アタシ、聞いてない」
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(あったあった。これで超幸せゲットしちゃうよー!) 100円玉貯金がまた減っちゃったけど、これもせつなの喜ぶ顔が見たいから。 そう心で呟いて、急いで家に向かう。 せつながダンスレッスンから帰ってくる前に明日の準備をしなくちゃ! 「ただいまー!」 「お帰りなさい。おやつあるわよー。」 「お母さん!ちょっとコレ見て!」 あたしが差し出したのはお弁当レシピ本。 「あら、随分凝ってるのねぇ今のお弁当って。」 「でしょでしょ!あたしも作ってみようかなーって。」 とは言え、いくら料理上手なあたしでも、最大の難敵は〝早起き〟だったりして。 「で、お母さんは何をすればいいのかしら?」 「あは。バレてたか……。じゃなくて!起こしてくれるだけでイイから。」 「あら、意外ね。もしかしてー、せっちゃんのため?」 「うん!」 勢いで買っちゃったレシピ本。幼稚園で職場体験とも重なって、意気込んでは みたものの…。どんなのを作ろうか、まだ考えてなかったり…。 あ!でもコレだけはハッキリしてるの。 ―――せつなを喜ばせたい――― 「そうねぇ。まずはラブが、どんなお弁当を作りたいか絵でも描いてみたら? レシピ本通りに作っても〝ラブらしさ〟が出ないでしょ?焦る事はないわよ。 その間にお母さんはお買い物行って色々買ってくるから。」 「うん!よろしくねお母さん!」 って絵なんか描いてたらせつな帰ってきちゃうじゃん! しばらく自分の部屋で集中してみる。 あたしの特製おべんと… 愛がいっぱい詰まった手作り… おかず冷めてもあたしたちの愛は… 何このあったか妄想。いつものあたしが戻ってきちゃったじゃん。 結局、ベッドの上でゴロゴロしながらレシピ本を読んでると… 「ただいま。」 「だぁーーーーーーーーーー!お、おかえり。は、早かったねー」 慌ててレシピ本を隠す。見付かったらプラン台無し。100円玉貯金も報われないよ。 「ん?今、何か隠したでしょ?」 「いいえ。」 「怪しい。」 「な、何?どうかした?ニヘヘ~」 「ちょっと見せなさいっ!」 「やだ。」 「やじゃないの!」 「だーめ。」 「もう!」 せつなはあたしの枕元へダッシュ。とっさにあたしは 布団と一緒にせつなに覆い被さる。 「もう、なんなの?」 「お願い。明日までナイショにさせといて…。ね?」 「悪い事じゃないのね?」 「うん。」 「わかったわ。疑ってごめんなさい。」 せつなはそう言うと、あたしと寄り添いそっと体を預ける。 しばらくして、どちらかが一方の名前を呼ぶ。しかし、眠っていることに気付いて、 優しく微笑み、自分も再び体を預けて目を閉じる。 ガチャ 「ラブー、何作るか決まった……。うふふ、考え疲れちゃったのかしらね、二人とも。」 (ここは一つ、お母さんが頑張っちゃおうかしら。) ~夕飯後~ 「ごめんお母さん。まだ何作るか決まってないんだ…」 「あ、大丈夫よ。一通り考えてみたから。この通りに作ってみたらどうかしら?」 「うわぁー!すっごーい!こっちはあたしので、こっちがせつなの?」 「そ。我ながら良く描けてるでしょ?で、これがレシピね。」 あれ?これってほうれん草のペーストで作ったクローバーだけど、お母さん… 「そ、それはじ、自分でやってちょうだい…ね?」 「はーいっ」 ありがとうお母さん。あたし一生懸命作るよ! せつな、明日楽しみにしててね! 絶対に幸せ、ゲットだよ! お金で買えないレシピ。 幸せのレシピは愛情いっぱい! 人の少なくなった時間。こっそり忍び込む一人の堕天使。 (お弁当レシピ本?隠す必要なんてあるのかしら…。どして?)
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ダンスレッスンに、 今日も美希ちゃんは来ていない。 ここのところ、撮影が目白押しで 美希ちゃんは忙しそう。 週末は泊まりがけでロケだって。 先月の雑誌にも、美希ちゃんが たくさん載っていた。 アウトドア特集での爽やかな笑顔。 乗馬体験での、おっかなびっくりな顔。 大人っぽいドレスを着て、すました顔。 どの美希ちゃんも、とても魅力的。 写真を見ていると、ふっと不安になる。 私を好きって言ってくれたけど、 美希ちゃんは、華やかな世界で生きてる人。 雑誌の写真だって、男のモデルさんに ご飯食べさせたり、みんなで肩を組んで にっこり笑っている表情が、とても自然で。 こんな人たちが居るところなら、 出会いだってたくさんあって、そのうち...。 胸元の飾りに、手を触れる。 ちょっと背伸びしたアクセサリーショップで 美希ちゃんと一緒に買ったネックレス。 勾玉のような、ゆるいカーブを描いた 小さな銀色の飾りがついている。 美希ちゃんと選んだとき、一緒に 指さしたのが、これだった。 ひんやりした感触が、心地良い。 私にとっては、一番大切な宝物。 でも、美希ちゃんにとっては、 たくさんある大事な物のなかの、 ひとつなのかな。 最新号のファッション雑誌が発売されていた。 公園の端にあるベンチに座り、ページを開く。 「あっ...」 私は思わず声をあげた。 『人気モデルの私服紹介! 今月は、人気モデル蒼乃美希ちゃんの 普段着を紹介しちゃうぞ!』 ............................... アタシ、私服だって完璧に決めてるの。 モデルは家を一歩出たら、絶えず見られることを 意識しないとネ。 アクセサリーのポイントは、 胸元のネックレス。 かわいいでしょ。 大切な人とおそろいなの。 え、彼氏?それはナイショ! ............................... 人差し指を唇に当て、いたずらっぽい 笑みを浮かべている美希ちゃん。 胸元には、私と一緒に買ったネックレス。 嬉しさと、会えない切なさが混じって、 つい、美希ちゃんの写真にキスしていた。 「何やってんの?」 突然後ろから声をかけられ、 私は飛び上がった。 「みみみみみ美希ちゃん!!!」 「やだ、どうしたの?祈里」 「いや、なな、なんでもないよ。 ちょっと写真にキス...いや、違っ...」 美希ちゃんがクスクス笑い、 私の肩に両手をのせ、後ろから 雑誌を覗き込んだ。 「あ、これね」 フレグランスが、ふわっと香る。 美希ちゃんの、匂い。 「最近祈里に会えてなかったから ちょっと私的にページ使っちゃった」 舌をペロっと出した美希ちゃんは 遠い人じゃなかった。 私のとっても近くにいる、大切な人。 「えええ...えっと...」 「ん?」 「...ありがとう...」 「うふふっ、顔真っ赤だよ」 美希ちゃんが自分のネックレスを差し出す。 美希ちゃんのネックレスには、 同じ銀色の飾り。 私のとは、向きが逆。 私のネックレスの飾りを、 美希ちゃんの飾りに合わせる。 流れるような、ハートの形になった。 「いつも、一緒」 「うん」 視界が、雑誌で遮られた。 美希ちゃんの方を向いた瞬間、 唇が重ねられた。 雑誌で隠れて、公園の人たちからは 多分、見えない。 「祈里が、一番だからね」 唇を離し、美希ちゃんがささやく。 私の心が、読めるんだろうか。 美希ちゃんの大胆な行動に、 私はもうすっかり骨抜き。 「今日は撮影で使った衣装借りてきたの。 これからうちで祈里のファッションショーやるよ!」 「ええ...似合うかな、私」 「大丈夫!祈里に完璧に似合うのを選んだから」 手を繋いだ私たちは、美希ちゃんの家に 向かって走りだした。 ずっと、この幸せが続くといいな。
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ドキドキ!プリキュア【1】 レス番号 作品タイトル 作者 備考 現11 未来のわたしたちへ 一六◆6/pMjwqUTk 第3話『最高の相棒登場!キュアダイヤモンド!!』六花side 現28 【フライング・ハイ】 れいん 第3話『最高の相棒登場!キュアダイヤモンド!!』マナside 現37 「出会いと未来と約束と」 黒ブキ◆lg0Ts41PPY 「友人は、大事にしなさい」あの日のお祖父様との約束は、固い決意となって私の中にある。どんな出会いも、運命も、きっと私の宝物――大切に楽しみますわ。それが、四葉ありすという生き方ですもの。 現76 「いつか、広い海のように」 黒ブキ ◆lg0Ts41PPY マナとの絆を信じながらも、晴れない六花の心。その黒雲を真っ直ぐに吹き飛ばす、小さなつむじ風とは? 現83 鏡よ鏡 一六◆6/pMjwqUTk 第24話『衝撃!まこぴーアイドル引退宣言!』より。本編後の、真琴の楽屋・鏡前での独り言。 現112 タイフーン・ファミリー 一六◆6/pMjwqUTk ラケルが見つけた、台風の秘密。それは一人じゃ寂しいから……かもしれません。 現120 「4対1」 Mitchell Carroll R18 四葉家のお泊り会。5人でお風呂に入って……。 現123 「交遊記」 Mitchell Carroll R18 ありす×真琴 現127 「おこた」 Mitchell Carroll R18 マナと六花の何気ない日常(?)のひとコマ 現140 家路にて 一六◆6/pMjwqUTk 「実はね。わたしも両親が居ないの」みんなにそう告白した時のダビィの様子を、少し不思議に思った真琴。その日、帰りの車の中で……。第42話『みんなで祝おう!はじめての誕生日!』の隙間のダビィ&真琴。 現146 【ねがいごとふたつ】 れいん 第42話『みんなで祝おう!はじめての誕生日!』の後の、ダビィ&真琴。競作7は、真琴目線での続きのお話。 現163 おハロー、まこぴーー cherry 冷たい雨がそぼ降る空は、今日の私の心を知っているのか。でもそんな時、仲間たちの笑顔が私を取り囲んで……。オープニングからのSS。 現168 頑張りまこぴー cherry 第15話『大いそがし! 真琴のアイドルな日々!』のその後の話。仕事に王女探しにと大忙しの真琴に、マナは……。 現173 悪夢との戦い cherry 第16話『レジーナ猛アタック! マナはあたしのモノ!』プレストーリー 現183 シャルルショートショート cherry シャルル目線の『ドキドキ!プリキュア』!?シャルルはマナが大好きシャル♪ 競作7 【エゴイスティックガール】 れいん 紅茶を淹れてくれる。カーディガンを持って来てくれる。早く寝ろ、歯を磨けと口うるさく言う――。いつもと変わらないのに、何かがおかしい。そんなダビィに、真琴は悶々と悩んで、そして……。現146の続きとも言えるお話。 競作12 愛を継ぐ者たち 一六◆6/pMjwqUTk この心に宿った想いがあるなら、それを受け継いでいきたい。あなたが見守ってくれていると信じて、みんなに幸せを届けたい。亜久里、真琴、マナ、六花、ありす、レジーナ。彼女たちは、愛を継ぐ者たち。 競作17 「ハート・ウォーミング・バレンタイン」 アクアマリン バレンタインはみんなにチョコを配れるのが楽しみ、というマナと、マナにチョコレート作る!と嬉しそうなレジーナ。そんな二人を微笑ましく見守る六花も、チョコレートにいっぱいの愛を込めて……。この競作で彗星の如く現れた期待の新人、初投稿の作品です! 競作36 「冬の贈り物」 アクアマリン トランプ共和国と人間界との違いの一つ、それは季節。真琴の初めての雪遊びは、仲間たちと一緒に雪だるまを作ることに……。ドキドキ!プリキュアのオープニングに想を得た、楽しい冬の風景です。 競作50 「がとー しょこ ら び」 maple 頼る者と頼られる者。それぞれのキモチは、目の前のこの作業に込めて。ありすと真琴、二人の儚くもずしりと重い、ビタースイートな結末や如何に……! 全325 「色あせない思い」 アクアマリン 激しい戦いの中で知った真実も、この胸にある新たな使命も、あの人に全て話そう。上手く伝えられるかわからないけど、素直な言葉に乗せて。だって、あの人は私の大事な家族――その思いだけは、決して色あせないから。 全374 「その瞳に映るもの」 アクアマリン マナと同じ学校に行きたい!レジーナの願いを叶えようと、力を貸す六花とありす。どうして勉強するの?どうしてアタシは学校に行きたいの?――これから先、その瞳に映るものから、彼女がその答えを探すことが出来ると信じて。 全484 『英知の光!』 Mitchell Carroll 小ネタ。大貝中に入学しても相変わらずのレジーナに振り回されて……。り、六花……落ち着いて! 全499 「母たちへの想い」 アクアマリン もうすぐ母の日。マナと六花はそれぞれの母へ、亜久里はおばあさまへ、そしてレジーナは……。私たちを生み出してくれてありがとう。見守ってくれてありがとう。感謝の気持ちは、贈り物と言葉と、そしてそれぞれの決意に込めて。 全546 「妖精座談会」 アクアマリン 人間に変身する方法を学んだシャルルたち。大騒動の初日が終わり、みんなに感想を聞くダビィ先生。ところが今度は先生の方が……!?第29話『マナのために! シャルル大変身!』の後日談的小ネタです。 旧77 ロールプレイヤー なずな 十年の間寄り添ってきたマナとあたしの絆は、果たしてどんな物語の世界に喩えられるのだろう。でも何に喩えても、マナの世界の中であたしがどんな姿を持っているのかだけは、どうしても分からなくて……。第2話の六花の告白から溢れ出した物語。 全788 “Rosetta in Cosmos”(前) makiray 2014年11月13日、欧州宇宙機関(ESA)が打ち上げた探査機が彗星に着陸したというニュースが流れましたよね。この歴史的快挙の裏に、実はこんな事実があったのです……! 全789 “Rosetta in Cosmos”(後) makiray セバスチャンが語る、“Rosetta”と自分との関係。「これは偶然でしょうか。それとも……」四葉ありすの思いが今、宇宙の果てをも越えようとしていた! 全832 素敵な記念日 ドキドキ猫キュア 今日はマナが何だか怪しい。六花も真琴も。ありすなんて連絡も取れない!ご機嫌斜めのレジーナは、つい、亜久里と喧嘩してしまうのだが……。 競作2-8 「一緒にいたいから」 ねぎぼう 「いたい?マナ」「うん、いたい……ずっと一緒にいたい」―― 記憶の中に輝く大切な存在は、いろいろなものをまとっている。姿、声、ぬくもり、そして――痛み。マナの優しい痛みを知ってしまった六花は、その傷に、どう寄り添うのか……。 競作2-10 笑顔の別れと涙の再会 ドキドキ猫キュア また会えて嬉しかった。別れは再会の約束だよね。今は、私の居るべき場所へ――大切な人たちを、泣かせたらいけないから。 競作2-11 チョコよりも甘く ドキドキ猫キュア 女子生徒からのチョコの山。なんて素晴らしい日、毎日バレンタインでもいいなんて言ってる人もいるけど、私はあまり興味がない――。仲間たちとの語らいを終えて、家路へ向かう六花に、マナは……。 競作2-15 『☆☆☆』 Mitchell Carroll 今日はバレンタインデー。チョコの甘さと共に、それに籠った人の願いが、涙を誘うことだってある。亜久里とレジーナ、その想いは、甘いチョコレートの中に一瞬で溶けだして……。 競作2-16 『★★★』 Mitchell Carroll 競作2-15続き。だけどそれだけで終わらないのがレジーナ。白と黒、天使と小悪魔、喧嘩は仲良しの裏返し♪ 亜久里とレジーナ、気付けばいつもの大切な日常の中に。 競作2-18 1.それは、キスの合言葉で 競作スレ2-188様 「大切な名前」がテーマのドキドキ4連作・1本目。「マナ……」「六花……」名前を呼び合うことで、二人を包む空気が変わっていく。大切だよ、って伝え合って、緊張しないで、って労わって、そして……。 競作2-19 2.それは、朝の挨拶で 競作スレ2-188様 2本目。毎朝きちんとあたしを迎えに来てくれる六花。時々起きてなくて怒られたりもするけれど、たまにはあたしだって、ね。だって、早起きは三文の得って言うじゃない。え? 何が得なのかって? それはね……。 競作2-20 3.それは、六花の家に泊まった夜に 競作スレ2-188様 3本目。ふと目覚めたとき、隣にあなたの安らかな寝顔がある幸せが、どんなものだかわかる? あなたを起こさないようにそっと噛みしめる、その静けさがまた、きゅんきゅんなんだよ。 競作2-21 4.それは、放課後の生徒会室で 競作スレ2-188様 4本目。人助けに夢中になって、仕事の山は高くなって……。そんな時にも、あなたはさりげなく現れてくれる。あたしを一人にしないでくれる。六花ぁ……大好きだよ! 競作2-47 ふたりきりの放課後 ドキドキ猫キュア マナのバレンタインデーのお返しの準備に、遅くまで付き合わされる六花。ほらほら、つい愚痴りたくなるのは分かるけど、今は貴重なふたりきりの放課後なんだから。 全954 『FROG WOMAN』 Mitchell Carroll R18 相田あゆみ×菱川亮子 夜も更けた菱川邸。今日は相田家にお泊りの六花に代わって、そこに居るのは……。熟女たちの、夜のイトナミをあなたに。 全971 似た者どうし ドキドキ猫キュア 「幸せの王子」という童話を初めて読んだ。童話なんだからただのお話だってわかってるけど、王子と燕って似た者どうしよね。え? ここにも似た者どうしがいる、ですって……? 本編から二年後くらいのお話です。 全989 初めての共同作業 ドキドキ猫キュア 珍しく、一緒に料理をしようと亜久里を誘ったレジーナ。相変わらず喧嘩腰の二人だが、その話題はいつしか……。そしてレジーナが亜久里を誘った理由とは? 全2-31 trick or treat ドキドキ猫キュア 今日は待ちに待ったハロウィンだよ! お菓子がたくさん貰えるなんて、こんな素敵なイベントはありませんわ♪ 仮装をして勇んで出かけるレジーナと亜久里。でもせっかく訪れたのに、六花は何だかつれない素振りで……。 競3-32 つまりツインズ makiray 夢って不思議です。現実と反対のことが起こったりして。そしてそれが、実は嬉しかったりして。本当に変ですわね――。ソリティアでのいつものお茶会。でも、何だかレジーナに対する亜久里の態度がおかしくて。それを見た真琴は。そして、レジーナは……? 全2-195 贈りもの makiray それぞれの事情でクリスマス当日に集まれなかったマナたちが、『豚のしっぽ亭』で一日遅れのクリスマスパーティー。ご馳走を食べて、プレゼントを交換して、そして……。五人五色(?)の個性が楽しい、彼女たちの語らいのひと時を! 全2-204 『大貝中一年レジーナ!』 Mitchell Carroll ハ~イ、あたし、レジーナ。大貝第一中学校の一年生。学校?うーん……時間割が決まってて、つまんない教科の授業も受けてあげなくちゃいけないのが面倒ね。あと、マナと同じ学年じゃないっていうのも気に入らない。でも楽しいよ。何たって、マナと同じ学校にいるんだもんね! 全2-228 『四葉邸へようこそ♡』 Mitchell Carroll 「うわ~興味出てきたわ。今度、あなた(ロゼッタ)の家に行っていい?」ラン329で司会者が半ば強引に取り付けた約束。今ここに、それが果たされることに……!? 競4-22 『冷たいアイスの溶かし方(前編)』 猫塚◆GKWyxD2gYE R15 最近、六花が冷たい。原因は何なんだろう。あたし……なのかな……。考えた末、マナが六花を体育館のステージ裏に呼び出したのは、大貝祭が目前に迫ったある日の放課後のことだった――。 競4-23 『冷たいアイスの溶かし方(後編)』 猫塚◆GKWyxD2gYE R15 アイスを溶かす時は慎重に。急に熱をかけようとすると、氷の膜が甘い心を閉ざしてしまうから。だから、魔法はゆっくりと――。服の上から、六花の胸に手を伸ばすマナ。その指使いに、六花は……。 全2-348 『レジーナの日記 ~June~』 Mitchell Carroll 6月○日。今日はマナの家に泊まりました。だけどね、なんかヘンなの、マナったら……(閲覧注意!日記の覗き見は、くれぐれも後ろに気を付けてね。)
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禁止行為で爆死した静香が所持していた大量のプリキュア変身グッズ。 たまたま通りかかってそれを受け継いだのは、とんでもない女だった! 「あら、これは何かしら?」 最近症候群が落ち着いてきたので夕飯の買い物をしていた丸眼鏡の主婦は 道端にばらまいてあった謎のアイテムをいじってみた。 するとなんということでしょう!主婦はプリキュアに変身してしまったのです。 「あらまあ、これで夕飯の食材を奪いやすくなったわ」 【セワシ@ドラえもん 死亡】 【骨川スネ夫@ドラえもん 死亡】 【首領パッチ@ボボボーボ・ボーボボ 死亡】 【ところ天の助@ボボボーボ・ボーボボ 死亡】 必殺技で消滅 彼女はプリキュアの力でセントヘレナ島にいた参加者を皆殺しにした。 まだこの島で生き残っている参加者は、仮面ライダーフォーゼとゴーカイピンクの2人だけである。 そして、再びヒーロー同士の哀しき戦いが勃発したのだった。 【二日目・22時00分/セントヘレナ島】 【野比玉子@ドラえもん】 【状態】健康、キュアメロディー 【装備】キュアピーチの装備 【道具】支給品一式、キュアモジューレ@スイートプリキュア♪、 リンクルン@フレッシュプリキュア!ココロパフューム@ハートキャッチプリキュア、 ミルキィパレット@Yes!プリキュア5GoGo、タッチコミューン@ふたりはプリキュアMaxHeart、 変身用徳利@ふたりはタマキュアSilverSoul(というか銀魂) 【思考】 1:参加者を殺して夕飯の材料を奪う 【ロッテンマイヤー@アルプスの少女ハイジ】 【状態】仮面ライダーフォーゼに変身中、宇宙キタ━━━(゚∀゚)━━━!! 【装備】DXフォーゼドライバー@現実 【道具】支給品一式、不明支給品一式 【思考】 1:玉子とアイムを殺す 【アイム・ド・ファミーユ@海賊戦隊ゴーカイジャー】 【状態】健康、ゴーカイピンクに変身中 【装備】アサルトライフル、手榴弾×10、コンバットナイフ、ガスマスク、防弾チョッキ、モバイレーツ、ゴーカイピンクのレンジャーキー 【道具】支給品一式 【思考】基本:国王の命令でカブトボーグ殲滅 1:玉子とロッテンマイヤーを倒す
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(これじゃまるで、見た目までサンタクロースじゃないの・・・。) ブランドショップの名前が入った特大の紙袋。その紙袋にしては長くて立派な持ち手の紐をヨイショと肩に回して、美希は心の中でぼやいた。 手提げにして持つには、持ち手が長すぎる。肩にかけるには、袋のボリュームがありすぎる。一番いいのはこうして肩に担ぐことだが、あまりこのまま街を歩きたい格好ではない。 (仕方ないわね。たかだか十分か十五分の辛抱よ、美希。) 自分にそう言い聞かせ、素知らぬ顔で、歩道の一番端っこを足早に歩く。しかし・・・。 「よぉ、美希ちゃん。凄い荷物じゃないか。大丈夫かい?何ならバイクで運んでやるよ。」 「お蕎麦屋さん!あ、ありがとう。大丈夫です!」 「美希ちゃんじゃねえか。どうしたんだい?大荷物で。うちの母ちゃんに、ちょっくら手伝わせようか?」 「お魚屋さん。あの・・・ホントに大丈夫ですから!」 商店街のあちらこちらから掛けられる声に、美希の顔が次第に引きつっていく。 と、そこへ。 「ちょっと美希。これ・・・」 「だ、だからっ、大丈夫ですってば!・・・へっ?」 思わず振り返った美希の目の前に差し出されたのは、三つのプレゼントの包み。 「落し物よ、美希。まさか、帰りの目印に落として行ったんじゃないんでしょ?」 包みの陰から、笑いを湛えた紅い瞳が覗いた。 星に願いを ~ Small Christmas trees ~ 「まったく。街中にプレゼントをばらまくなんて、とんだサンタクロースね。」 せつなの呆れた口調に、美希は小さく肩をすぼめる。 「ごめんなさい。袋が破けてるなんて、全然気が付かなかったわ。おまけにせつなを付き合わせちゃって。」 「私はいいわ、今日は予定があるわけじゃないから。それで、これどこに持っていくの?」 破れてしまった袋の中身は、見かねたパン屋のおじさんにもらったビニール袋四つに何とか詰め込んで、美希とせつなで二つずつ持っている。 「すぐそこよ。四つ葉町病院。」 「四つ葉町病院って・・・美希たちが入院してた?」 「ああ、そうね。」 わずかに顔を曇らせるせつなに、美希はあっさりと頷くと、優しい声で言葉を続けた。 「確かその前のことだったから、せつなはまだ居なかったけど、アタシたち、あの病院で一人の女の子と知り合いになったの。それから、小児病棟に時々顔を出すようになってね。」 「それでクリスマス・プレゼントを持っていくのね。それにしても、美希一人でこんなにたくさん?」 せつなのいぶかしげな視線に、美希は苦笑しながら、ペロリと舌を出す。 「実はこれ、全くの新品ってわけじゃないのよ。いや、ほとんど新品も同然ではあるんだけど。買って来たはいいけれど、見向きもしてくれなかったから。」 「誰が?」 「誰がって・・・えーっと、だからこれで遊んで、アタシと仲良しになって欲しかった赤ちゃん。」 「赤ちゃん!?」 「せつな、声大きい!だからぁ・・・シフォンよ、シフォン!」 (あ、なるほどね。それにしてもこんなにおもちゃを買い込むなんて、美希らしいわ・・・。) せつなはやっと納得して、どきまぎと目をそらす美希の横顔を見てクスリと笑う。 美希がキュアスティックをなかなか手に入れられなくて苦労していた、という話は、ラブや祈里から聞いたことがある。そのために、シフォンのお世話係を一手に引き受けて、大変な目に遭ったらしいということも。 もっとも、最初からパッションハープが使えて、シフォンにもなつかれていたせつなには、美希の苦労がいまいちピンと来ないのも事実だ。シフォンのいたずらがどんなに大変かということだけは、よくわかっていたけれど。 「ブルンと会えて、シフォンがラブの家に帰ったときに、これ全部シフォンにあげようと思ったんだけどね。でも、シフォンってこういうおもちゃよりも、ほら、座布団とかティッシュとかドーナツとか、こっちが遊んで欲しくないもので遊ぶほうが好きじゃない?」 「まあね。それにこんなにたくさんあったら、シフォンもどれで遊んでいいのか、よくわからなくなっちゃったんじゃない?」 「そんなぁ~。」 美希の情けない声に、せつなは再びクスクスと笑った。 「でも、きっと病院の子供たちは喜んでくれるわよ。」 「そうかしら。新品じゃないし、ちょっと失礼かもって思っているんだけど。」 せつなは持っているビニール袋の中から、プレゼントの包みをひとつ取り出して、じっと眺める。 「こうやって、ひとつひとつ汚れたりしていないか確認して、丁寧に包装したんでしょ?美希の気持ちは、きっと伝わると思うわ。」 そう言って優しく微笑む親友に、美希も穏やかな笑みを返す。 「・・・美希。これは?」 プレゼントを元に戻そうとしたせつなが手を止めた。 袋の底の方に、大きな箱が入っている。それは、ほかのプレゼントとは違う、明らかに時の流れを感じさせる古びたものだった。 「ああ、それはプレゼントじゃないの。病院の・・・そうね、面会室かどこかに飾ってもらおうと思って。」 美希の声が少し沈んだのに気付いて、せつなは首をかしげたまま、それ以上は何も訊かなかった。 「まあ、こんなにたくさん!どうもありがとうね。」 小児病棟のナースステーションで事情を話した二人は、すぐに広い教室のような場所に案内された。 しばらくして現れた小柄で細い目が優しそうな若い女性は、トレーナーにエプロンという姿で、お医者さんとも看護士さんとも、明らかに違っていた。 「私、院内学級で教えているの。子供たちはクリスマスをそれは楽しみにしているから、きっと喜ぶわ。」 人懐っこく笑う“先生”に、「よろしくお願いします」と会釈して、美希はプレゼントの包みを机に並べ始める。 「もしかしたら、持ち込んではいけないおもちゃがあるかもしれないと思って、包みの底に、中身を小さく書いておきました。」 「ありがとう。助かるわ。」 「病院のことに詳しいのね、美希。」 「まぁね。弟が身体が弱いせいで、病院には割と縁があるの。」 せつなも感心しながら、包みを並べるのを手伝う。 やがて、ビニール袋の中には、あの大きな箱が残るだけとなった。 美希が箱を机の上に置いて、蓋を開ける。中から出てきたのは、こじんまりとはしているが、まだまだ新しい、クリスマス・ツリーだった。 「まぁ・・・こんなものまで頂いちゃっていいの?」 先生が、箱の中から出てきたツリーを見て目を見開く。 「はい。二、三年は飾ったことがあるものですけど、今はうちにはほかのツリーもあるので。」 「大切なものなんじゃないの?」 先生にそう言われて、美希は顔を上げ、ニッコリと笑う。 「ええ。大切だけど、もう家では飾らないものなので、ここで飾って頂けたら嬉しいんです。」 「そう・・・。わかったわ。じゃあ、この院内学級に飾らせてもらいましょう。良かったら、飾り付け手伝ってくれる?」 「はい!」 ツリーが入っていた箱の中には、たくさんのオーナメントも大切にしまわれていた。 金や銀のベルや星。モールで作られたヒイラギやサンタクロース。中には、レンガ造りが暖かく見える煙突の大きな家や、繊細な模様の羽を持つ銀色の天使や、細かな模様編みが施された靴下など、あまり見かけないような精巧な飾りもあった。 見ているだけでわくわくするような小さなクリスマスの象徴を、美希が丁寧に箱から取り出し、せつなと先生の二人で飾り付けていく。 「美希、もうツリーの飾りとしては十分な気がするんだけど。でも、まだずいぶんオーナメントが残っているわね。もっと飾ったほうがいいのかしら。」 やがて、せつなが手を止めて困ったように問いかける。確かに机の上に残っている分だけで、小さなツリーひとつくらいは飾れそうだ。 「忘れてたわ。この箱に入っているオーナメント、ツリーひとつ分よりかなり多いのよね。かわいいオーナメントを見つけるたんびに、パパが・・・コホン。」 最後は呟くように言いかけたのを、美希はハッとしたように、慌てて咳払いでごまかした。 「そう。じゃあ、こんなのはどう?」 先生がつと席を立って、教室の後ろに並ぶロッカーのひとつを開ける。中に入っていた大きな紙袋から、色とりどりのモールやビーズ、かわいらしい松ぼっくりやポスターカラーなどが顔を出した。 「子供たちに、これでクリスマス・リースやミニツリーを作ってもらおうと思ってるの。もし良かったら、この飾りも使わせてもらっていいかしら。」 先生の提案を聞いて、美希の顔が嬉しそうにほころぶ。 「もちろん!飾られないでずっと箱の中に入れておくのも、かわいそうだなって思ってたんです。」 「ありがとう。今年はいつもの年より、いっそう素敵なリースが出来そうだわ。」 にっこりと微笑む先生の隣りで、せつなも目を輝かせた。 「凄い。こんな材料から、クリスマスの素敵な飾りを作ることが出来るんですか?」 「ええ、意外と簡単なのよ。そうだ、試しに二人も作ってみる?一番簡単でかわいいのを教えてあげるわ。」 先生はそう言って、大きめの松ぼっくりを二つと、ビーズと接着剤、それにペットボトルの蓋を二つ用意する。 ペットボトルの蓋に、松ぼっくりのおしりの部分をくっつけて、カラフルなビーズを飾り付けて行くと、ほんの十分かそこらで、かわいらしいミニツリーが二つ、完成した。 「どうぞ、記念に持って帰って。」 「うわぁ、ありがとうございます!」 せつなは嬉しくてたまらないという風に、小さなツリーの先端を、ちょんと指でつついた。 病院の外に出ると、辺りはもう薄暗くなりかけていた。すっかり身軽になった二人が、肩を並べて夕日の中を歩く。何となく、二人の歩調がいつもよりものんびりとしたものになっていた。 「今日はありがとう、せつな。結局、半日付き合わせちゃったわね。」 「いいわ、私も楽しかったし。それに、こんな素敵なもの、頂いちゃったし。」 せつながまだ手に持っていたツリーを、掌に乗せる。美希もそれを見て、自分のツリーを取り出した。自然と目と目を見交わして、二人は同時にフフッと笑い合う。 そのとき、どこから取り出したのか、せつなが何かを美希の手の上に、そっと置いた。 「せつな、これ・・・!」 それは、クリスマス・ツリーのてっぺんに置かれる星の飾り。トップスターとも呼ばれる、オーナメントの中でもひときわ大きく立派なピースだった。 「これ、持って来ちゃったの?」 「これだけ、飾るための紐もリボンも付いていないから、どうやって飾るんだろうと思って。それに、とっても綺麗だったし。」 「そんな子供みたいなこと・・・。これはね、ツリーのてっぺんに飾る星なのよ。サンタクロースがこれを目印に降りてくるとも言われているの。」 「じゃあ、これが無いと院内学級の子供たちに、サンタさん、来てくれないかしら。」 せつなは立ち止まって、少し困った顔で、美希を見上げた。 「い、いやぁ・・・サンタクロースが子供を見落とすことなんて無いと思うし・・・あ、そうよ。ホラ!待合室に大きなツリーが置いてあったから、きっと大丈夫よ!」 力強くそう請け負う美希に、せつなはクスリと笑う。 「ごめんなさい。本当は、あの先生が別の星の飾りをツリーのてっぺんに飾っているのを見たの。だから、その点は大丈夫。」 もうっ、からかうなんてひどいじゃない――そう言いかけた美希は、せつなが何かを言いたげにこちらを見ているのに気付いて、その言葉を飲み込んだ。 「美希、この飾りを机の上に置くとき、ちょっとためらったでしょ。もしかしたら、美希にとって特別なものなんじゃないのかって、そのとき思ったもんだから・・・。」 「・・・まったく。かなわないわね、せつなには。」 美希は、トップスターを大切そうに指でつまむと、それを空にかざした。夕日を受けて、金色の星の表面が、さらにあたたかな光を帯びる。 「トップスターは、サンタクロースの目印だって言ったでしょ。でも元々は、西洋の神様が生まれたときに、遠い異国の賢者をその神様の元に案内した星と言われているの。つまり、遠くにいる人でも導く星、という意味があるわけ。だからサンタクロースの目印にもなるのよ。」 オーナメントをくるくると手の中でもてあそびながらそう言う美希を、一体何の話が始まるのだろうと、せつなは小首をかしげて見守る。 「あれは・・・そうね、アタシがモデルになりたいって言い始めた年のクリスマスだった。パパが、このトップスターを買ってきたの。まぁ、忘年会だか何かで酔っ払ってたせいもあるんだけど、小さかったアタシの手にこの星を握らせて、『これは、大きくなったときの美希だよ。パパはそう信じてるんだ。』なぁんて言ったわ。トップスターの意味も、そのときに教えてもらったの。」 絶対に本人は覚えていないと思うけどね。そう言って笑いながら、美希は相変わらず手の中の星を、くるくると回す。 「今日、久しぶりに昔のツリーの箱を開けてみて、これを見たらパパの台詞を思い出したのよ。アタシもすっかり忘れていたもんだから、それでちょっと感慨にふけっちゃったのかな。まさかせつなに見られていたなんて、思わなかったわ。」 ハイ、この話はおしまい。そう言いたげに、コートのポケットに星の飾りを突っ込もうとした美希の手を、せつなの手がすばやく掴んで止めた。 いつの間にか、二人は天使の像の前へと差し掛かっていた。 (やっぱりあのツリーって、美希のお父様が買ってくれたツリーだったのね。) せつなはそう思いながら、美希の手からオーナメントを取り上げる。そして自分のツリーを天使の像の足下に置くと、彼女のもう片方の手の上にある小さなツリーの上へと、その大きな星を導いた。 「ちょっとお星様が大きいけど、こうやって飾ったら、もっとツリーらしくなるんじゃない?」 「いくらなんでもバランスが悪いわよっ。星の大きさとツリーの大きさが同じくらいじゃない。」 「いいの。何か楽しいことを思いついたら、細かいことを気にしちゃダメだって、ラブが言ってたわ。」 「・・・せつな。ラブの言うこと、何でもかんでも鵜呑みにしない方がいいわよ?」 せつなは美希の言葉を無視して、今度は接着剤を取り出すと、ツリーのてっぺんに大きなトップスターを取り付ける。小さな松ぼっくりの上に、星というよりまるで太陽が輝いているような、そんなミニツリーが出来上がった。 「はい。これなら美希の部屋の窓のところにでも、ちゃんと飾れるでしょう?」 嬉しそうに小さなツリーを両手で差し出すせつなから、美希はふいに目をそらして、斜め上の空をにらんだ。そのまま、目と鼻の奥をジーンとさせている熱い塊が、どこかへ消え去ってくれるのを待つ。 (せつなったら・・・。まるでアタシが小さい頃のツリーをずっと飾れずにしまっておいたことまで、お見通しみたいじゃないの。) 「・・・美希?」 心配そうに覗き込んでくるその顔にニヤッと笑いかけて、美希はせつなの手からツリーを受け取ると、さっきのせつなと同じように、それを掌の上に持っていった。 「これ、本当にちゃんと飾れるのかしら。こんなに頭でっかちになっちゃったら、バランスが悪くてきっと・・・あれ?」 不安定な掌の上でも、小さなツリーはピクリとも揺るがず、当たり前のように立っている。その土台がペットボトルの蓋だとは、とても思えない安定感。 「どうしてこんなに!?」 「私を甘く見ないでよ、美希。ちゃんと完璧に、バランスは取ったわ。」 「もうっ。どうしてそこでアタシの台詞を取るのよっ!」 晴れやかに笑い合う二人の少女を、天使の像と、小さな二つのツリーが見守る。 クリスマスまであと二週間。クローバータウン・ストリートは、これからますます華やかになる。 ~終~
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シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』。その台本をせつなは静かに閉じる。 もう、練習目的でこのペ-ジを開くことはないだろう。今後は思い出の品となって宝物の一つになる。 四つ葉中学校文化祭、三年生のステージのラストを飾る演劇。その本番を明日に控え、今夜は早く休むことにした。 せつなは机の引き出しを開く。赤い字で“SETSUNA”と書かれたプレート。その横に四つ葉のクローバーが添えられている。 イースが最期に見つけた四つ葉のクローバー。それをラブが持ち帰って、押し花にして飾ったものだ。 せつなはそれを宝物にして、机の中に大切に保管してしまった。 今、部屋にかかっているのは二枚目のプレート。ラブが慌てて作り直したものだった。 せつなはそっと胸に手を当てる。“幸せの素のペンダント”今ではもう――――その感触も思い出せない。 空しく戻した拳を固く握り締める。 とても大切な物だった。支給される物ではなくて、初めてせつなに贈られた物。最初にして、最高の宝物だった。 その後悔から、それ以後の思い出の品を大切にするようになった。 美希からもらったアロマ瓶。祈里の手書きの犬のしつけ方ノート。ラブ手製のルームプレート。そして、あゆみの贈り物のブレスレット。 明日の劇が終わったら、この台本もここに加えようと思った。 とても悲しいお話だから、決して楽しいだけの思い出ではないけれど、忘れられない大切な記憶になると思えた。 「待って! 私が演技なんて……。やったことがないわ」 主役に抜擢された時、とっさに口にした言葉を思い出す。フフッっと、小さく笑った。 本当は逆なのにと思う。演技をしたことが無いんじゃなくて、演技しかしたことが無かったんだと。 ラビリンスに生まれた瞬間から宿命付けられた配役。総統メビウスの僕であること。それを精一杯演じてきた。 幼くして四大幹部の一角にまで登り詰め、決められた道、敷かれたレールの上を最速で走り抜けてきた。刹那の名のごとく。 自分の心の声に耳を塞ぎ、他人に悲鳴を上げさせて―――― 不自由な身の上であったとは思う。多分、ロミオやジュリエットよりもずっと。 それでも、自分にこの二人の半分の勇気でもあったなら、強い意思があったなら。そう思わずにはいられなかった。 イースは結局、運命に逆らうことなく果てた。命を賭してでも、否、自ら断ってでも想いを遂げようとした二人となんと違うことだろうか。 ラブはラストを変えようと言った。二人を救ってハッピーエンドにしようと。 せつなは衝動的にそれを拒んだ。言葉にできるほど確かな理由があったわけではない。ただ、それは二人の生き様への冒涜であるような気がした。 ジュリエットは、あの時のイースと同じ十四歳で死んだ。短かすぎる命。それでも果たして彼女は不幸であったのだろうか。 自らの意思で運命の呪縛を断ち切って、どんなに長生きした人にだって負けない永遠の愛を手に入れたのだ。 それを、可哀想なんて理由でその決意ごと否定してしまっていいのだろうか。 幸せの素すら手にすることなく死んだイースに比べて、手にする資格もないまま与えられた東せつなに比べて、――――この二人はどこまでも眩しくて、憧れの存在だった。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。四つ葉中学文化祭(後編)――』 文化祭の二日目にして最終日。体育館にて、最大の見所である三年生によるステージが開催される日。 前日を超える、凄い人数の来客で広い学内の敷地が埋め尽くされる。 「せつな、いよいよ次だね。こんなに人がいっぱいで緊張してきたよ」 「おとうさんとおかあさんが観に来てるわ。美希とブッキーも少し離れたところに」 「あっ、ホントだ! 美希たんとブッキーはどこだろう?」 「右から四列目の真ん中辺りよ。――って、どうして正おじ様や尚子おば様、レミおば様まで来てるのかしら……」 「お店休んじゃったとか? 美希たんもブッキーも学校違うから出ないのにね」 「東さん、よくこんな中から見分け付くわね」 「とにかく、ここまで頑張ってきたんだもん。必ず成功させようね!」 「「ええ!!」」 もうすぐ自分たちの劇が始まる。もちろん、メイクや衣装の支度は済んでいて後は開始を待つばかりだ。 準備期間こそ短かったものの、皆、集中して圧倒的な稽古をこなしてきた。 その日々と共に培ってきたクラスメイトとの絆。それが自信となって表情に宿る。見渡す限り不安そうな者は一人もいなかった。 ステージでは、隣のクラスの出し物『桃太郎と一寸法師』の楽しいお芝居が盛況だった。 ついに鬼が島の鬼を打ち倒した桃太郎。お話はそこから始まった。 しかし、平和な世も束の間、再び各地で鬼が跳梁跋扈しはじめる。原因は出雲の国にある白連洞に開いた大穴だった。 国で一番深い洞窟が、突然地獄と繋がってしまったのだ。 さすがの桃太郎も、自分と動物のお供たちだけでは対処しきれず都に援軍を求める。応じたのは、一寸法師と名乗る精悍な若者が率いる侍衆であった。 背の丈は桃太郎より一回り大きい。腰に差すのは日本刀ではなく、縫い針に似た形状の刺突用の直刀だった。片手剣であり、もう片方の手には小槌を携えていた。 彼らと協力して各地を巡り、鬼どもを洞窟に追い返すことに成功する。しかし、このまま閉じ込めてもすぐに封印を破って出てきてしまうだろう。 動物と侍衆を見張りに残し、桃太郎と一寸法師はたった二人で地獄の鬼王に挑む。 激しい戦いの末、ついに鬼王を打ち倒す。そして一寸法師は、打ち出の小槌で岩を大きくして地獄の穴を塞いだ。 こうして、今度こそ本当の平和が訪れたのだ。 とことん楽しさを追求したお話だった。鬼のお面もどこかコミカルで、下手な作りの衣装もユーモラスで。 殺陣の動きも、せつなたちと違ってゆっくりで大振りで、いかにもお芝居って感じでこれはこれで素晴らしかった。 鬼王はベニヤ板で作った高さ四メートルもあるハリボテだ。ゴトゴトゴトと大きな車輪の音を響かせながら舞台に現れる様子は、リアリティこそ無いが迫力満点だった。 「くすっ、くっくっ……」 「せつなが笑ってる!?」 「東さんが笑ってる!?」 「なによ、私だって笑うことくらいあるわよ」 「だって、せつなが嫌いな戦いのシーンだよ?」 「これは娯楽でしょ、一緒にしないで!」 「シェイクスピアだって、本質的には娯楽だと思うんだけど……」 「せつな、文化祭楽しい?」 「ええ、とっても楽しいわ」 「よかった! よかったね、せつな」 「きゃあ! ちょっとラブ、離して……」 ラブが嬉しそうにせつなに抱きつく。感情をストレートに表現するラブにとっては、特に珍しい行為ではない。 教室でもよく見かける光景なのだが……。 主役の豪華な衣装を着た二人の抱擁は、あまりにも人目を引いて―――― 「コホン。お二人さん、劇の開幕はもう少し先ですよ?」 「あっ、ゴメン、せつな。つい……」 「もう、恥ずかしいでしょ。謝らなくていいけど……」 軽く茶化しながらも、由美は寂しそうにそんな二人の様子を眺めた。 ラブには敵わないな、やっぱり。そんな独り言を聞こえるはずのない小さな声でつぶやく。 「東さん、ごめんね。わたしたちもあんな風に楽しいお芝居にすれば良かったね」 「ロミオとジュリエットは素敵な物語よ。私、演じられて良かったと思ってる」 「もうじき開幕ね。その前に、由美にお願いがあるの」 「わたしに?」 「由美がいてくれたから、私は楽しく学校生活を送れたんだと思う。もっと仲良くなりたいから、私を名前で呼んでほしいの」 「せつな……さん?」 「せつなでいいわ。私をそう呼ぶのは、ラブと美希に続いて三人目ね」 「うん! せつな、いい舞台にしようね」 「ええ! 精一杯がんばりましょう」 「でも、ロザラインの由美はせつなに振られちゃうんだけどね」 「そうだった……。って、ラブったらひどい!」 「あはは、ごめ~ん」 「全くもう……」 そうこうしてる内に盛大な拍手が体育館中に鳴り響き、舞台の両側からカーテンが閉じていく。 楽しいお芝居のラストを、クラス全員の喜びの踊りで飾りながら。 「いよいよだね。あたしたち、みんなで幸せゲットだよ!」 『おぉ~~!!』 ラブ、せつな、由美、そしてクラスメイトのみんなが、それぞれの持ち場に向かって勢いよく駆け出す。 ついに文化祭の最終ステージ――――演劇『ロミオとジュリエット』の幕が開いたのだ。 ナレーションが終わり、舞台のカーテンが左右に開いていく。 先ほどのお芝居は賑やかで楽しかった。次はどんなに派手で、美しい舞台装置が用意されているのだろう? 大勢の観客が期待に胸を膨らませて、幕が開くのを今か今かと待ち構える。 しかし――――そこには何も無かった。 繋ぎ合わせた画用紙で描かれた背景もなく、板や角材なんかで組み立てられた屋敷もなかった。 登場人物すら姿を見せず、光すら差し込まず、ただ闇があるだけだった。 いや、――――居た! 音楽と共に、スポットライトが闇に紛れていた一人の人物を照らし出す。ロミオだ! 華麗に舞いながら、切ない己の胸の内を明かす。 もう一人、今度は美しい女性が照らし出される。ロミオの憧れの人、ロザラインだ。 ロミオは美辞麗句を並べながらロザラインを口説く。しかし、まるで相手にしてもらえない。 つれなく去っていくロザラインと、悲しみに暮れるロミオ。 そんな様子を見かねて、友人のベンヴォーリオはロミオにロザラインを諦めるように諭す。 彼の強い勧めで、ロミオは敵地であるキャピュレット家で催される仮面舞踏会に参加するのだった。 どこまでも飾り気の無い、シンプルな演劇だった。 時々挟まれるナレーションと、効果的に流される音楽。それ以外は、本当に何も無かった。 ただ、見る目のある人なら驚愕したはずだった。 彼らの衣装や装飾品の精巧さに。絶妙な位置でライトを当てる照明係の腕の鮮やかさに。 そして、歩き方一つ、話し方一つ、表情一つ、それら演技力の全てが、素人の範疇を超えていることに。 もう一つ、舞台を見ずに客席を注視する者がもし居たなら、やはり気が付いたはずだった。 始めは失望し落胆していた観客たちが、息を呑み、拳を握り、身を乗り出すようにして舞台に夢中になっていく様子に。 仮面舞踏会が始まる。ステージ上の全ての照明が点灯され、舞台を煌々と照らし出す。 やっぱり、何の飾り付けも無い舞台だった。でも、そんなことを気にしている者は既に誰もいなかった。 クラス全員で踊るダンス。楽しげな笑顔と、洗練された動き。それらがありもしない美しい背景を、幻想という形で観客に見せるのだ。 一際目立つ女性が進み出る。金色に輝く、そんな形容が似合う太陽のような少女。 桃園ラブが演じるジュリエットだった。瞳に不思議な力を宿す少女。その娘が会場を見渡した時、観客全てが自身がロミオになったかのような感覚に囚われる。 まるで魅了の魔力でもあるかのように、ロミオと一緒にその姿に釘付けになるのだった。 ジュリエットが太陽の姫ならば、ロミオは月の貴公子。互いの対照的な魅力は、一緒に居る時ほど際立って輝きを放った。 男性の観客はジュリエットに惚れ、女性の観客はロミオに恋心を抱いた。 ジュリエットの切ない胸の内の告白。人目を忍ぶロミオとの逢引。見ているだけで痛いほどに伝わってくる、互いを愛して求め合う二人の情熱。 そして、ロレンス神父の導きによる秘密の婚姻の儀式。 結婚式と呼べるほど豪華なものではない。どんなに貧しい者でも、もう少しはマシな式を挙げることだろう。 互いに街を二分するほどの家柄に生まれながら、祝福する者の一人すらいなかった。 それでも嬉しそうだった。これ以上幸せな者なんて世界中に一人もいない。ロミオもジュリエットも、互いにそう信じて疑わなかった。 その笑顔が悲しくて――――その想いがいじらしくて――――この先の運命が痛ましくて。 早くも涙を流す観客がいた。 どうして、演劇の経験のない二人にここまで真に迫る演技ができるのか? 不思議に思うお客さんも少なくなかった。 答えは簡単だった。ラブもせつなも、始めから演技などしていないのだから。 本心から愛していた。本心から喜んでいた。本心から求め合っていたのだから。 その意味を知るものは、大勢の観客の中でも美希と祈里の二人だけだった。 ラブは知っていた。大切な人が冷たくなっていく絶望を。最愛の友が手の届かぬ世界に旅立ってしまう寂しさを。 せつなは知っていた。生きては決して結ばれぬ運命があることを。己の死を知って、最期に一目会いたくなる。そんな気持ちを―――― どんな名優の演技ですら、真実の想いに敵うはずなどないのだから。 やがて、物語は悲劇の終盤へと進んでいく。 マキューシオとティボルトの決闘。ロミオの制止も空しく失われる親友の命。そして、激しく燃え上がるロミオの怒り。 観客が息を呑む。まるで女の子のような(事実なのだが)、美しい貴公子だったロミオの突然の豹変。 ロミオの身体を纏うオーラの質が切り替わる。会場中に叩きつけられる、鋭利な刃物のような殺気。眠れる獅子の目覚めに観客は震え上がる。 小鳥のように囀る口は固く噛み締められ、女性の手を取るしなやかな指は、剣を握るためだけにあるかのように冷酷な動作を行う。 先ほどのお芝居のチャンバラなどとは全く違う、生々しい殺し合いが目の前で繰り広げられる。 誰が想像できるだろうか? これも演技ではなく本当の姿だと。わずか十四の少女が、その人生の大半を戦いに費やしてきたなどと。 どう見ても、真剣としか思えない精巧な作りの模造刀。それが照明の光を反射して濡れたように光る。 目視できないほどの高速で振われ、剣と剣がぶつかり合うたびに金属音が鳴り響く。 無双の剣士と謳われたティボルトが、ロミオの一撃に貫かれて倒れる。 会場のあちこちで悲鳴が上がる。最期の瞬間まで見届けた女性客が果たしてどれほど居たろうか。 従兄弟のティボルトの悲報を聞いて、一時はロミオを恨むジュリエット。幼い頃から兄妹のように育てられ、彼女にとって身体の一部のような存在になっていた。 そんな悲しみの涙すら、ロミオへの愛の前には朝日を浴びた露のように消え去ってしまう。 ジュリエットにとって最大の悲しみはロミオの追放であり、その絶望の大きさの前には全ての不幸は霞んでしまうのだった。 その頃、ロミオはロレンス神父の元に身を隠していた。 「追放? どうして死罪ではなく追放なのですか? それは死よりも恐ろしいもの。 ヴェローナの外に世界はありません。そこに追放されるとは、死を賜ることに他なりません。 短剣で貫いてもいい。毒薬だってあるでしょう。その方がよほど一息で楽になれましょうに! 追放? そんな心を殺すような手段で死の苦しみを永遠に与え続けようとは、それが人間のすることですか!」 「いいから私の話を聞くが良い。お前の苦しみを和らげる教えを授けよう。追放の身に大きな安らぎとなるであろう。 二人もの命が失われたのに、お前もお前の愛する人もどちらも生きている。死刑で当然の法ですらお前を生かそうとしている。 これは大変な幸運なのだぞ。黙れ! いいから聞くのだ! お前は今すぐジュリエットの元に行け、そして慰めてさしあげるのだ。 その後、日が昇る前にマンチュアに発て。私が時を見てお前達の結婚を発表し、両家の憎しみを和らげ、太守の許しを得てお前を呼び戻してやろう」 ちょうどそのタイミングで、ジュリエットの使いの乳母が彼女の様子を伝えに来る。 神父の言葉を信じ、ロミオはジュリエットに別れを告げるべく屋敷に急いだ。 事情を包み隠さず話し、ロミオはジュリエットに謝罪する。彼女は全てを許して彼の無事を喜んだ。 そして、初めての夜。最期の一夜を共にする。固く再会を誓いながらも、心は永遠の別れを予期していて―――― 「もう発たれるのですか? まだ朝には間があります。あれは夜に鳴くナイチンゲール。朝を告げる雲雀ではありません」 「いや、あれは雲雀だ。東の空をご覧、雲の割れ目から光が零れているだろう?」 「いいえ、あれは朝の光ではありません。あれは――――」 「ならば、もう僕は捕まってもいい。殺されてもいい。僕だってどれほどこのままでいたいか。 朝よ! 来るなら来い! 僕は逃げも隠れもしない。さあジュリエット、死が二人を別つまで語ろうじゃないか」 「やっぱり……あれは雲雀です。ああ、朝の光が差し込んでくる。思えばあなたと過ごしたのは夜ばかりでした。 許されぬ愛とは承知していても、朝日の祝福すら得られないのでしょうか?」 「明るさが増すほどに、翳るのが僕たちの幸せだ」 「待って! 私たち、もう一度会うことはあるのでしょうか?」 「もちろんある! その時には、この苦しみも楽しい思い出の一部になっているだろう」 せつなの表情が苦しみに歪む。いつも、このシーンで。 あの時、「また、会えるよね?」そう尋ねたラブにせつなは返事をしてあげられなかった。 ラブもまた、それ以上問いかけをしなかった。嘘でもいい、どうして必ず会えると言ってあげなかったんだろう? 今度同じことがあったら、どんな返事をしてあげられるのだろう? ラブの表情が悲しみに翳る。やっぱり、このシーンで。 あの時、「それがせつなの夢なんだね!」そう言って笑顔で送り出してあげた。 せつなははっきりと頷いた。それが本当にせつなの幸せなら、止めない! その気持ちは今でも変わりない。 本当のせつなの、本心からの願いなら―――― 揺れる二人の心は観る者の心を打つ。プロの演技ではない。大げさな身振り手振りもなく、声色を変えて朗々と語ることもない。 でも、その分だけ真実があった。純粋な愛があり、悲しみがあった。 みんな懸命に耳を傾け、舞台を見守った。ただの一言も聞き逃すまい、一瞬たりとも見逃すまいとするかのように。 ティボルトを失った悲しみに暮れる、キャピュレットとその夫人。彼らはモンタギューへの復讐を固く誓う。 そして、同じく気落ちしているであろう娘のために素晴らしい縁談を用意する。 相手の名はパリス、太守の親戚に当たる青年貴族だ。家柄、人柄、武と学問の全てに秀でており、市民からの信望も厚い。 男性として理想の人物でありながら、モンタギュー家と街を二分するキャピュレット家の立場においても、またと無いほど良い話だった。 しかしジュリエットは頑として頷かず、あまつさえパリスの悪口まで言い出す始末だった。 キャピュレットは怒りのあまり、この縁談を受けないのなら勘当すると言い渡す。 ジュリエットは母親にすがるが、彼女も夫に同調し、パリスとの結婚を拒むならもう娘とは思わないと切り捨てる。 相談役と心の頼みにしていた乳母に話してみたものの、彼らと同じくロミオのことは忘れてパリスに嫁げと迫るのであった。 全てに絶望したジュリエットは、ロレンス神父の元に相談に行くことにする。 これで駄目なら、命を断とうと決意して―――― 「神父様、どうかお知恵をお授けください。パリス様が嫌いなわけではないのです。私の全てはロミオ様のものです。 ロミオ様と立てた誓いを守り通せるならば、何も恐れるものはありません。どんな苦難にも耐えるつもりです。 それでも何も手段が無いと仰るのなら、私は今すぐこの短剣で全てに始末をつけましょう」 「良い方法など何も思いつかぬ。だが、死の覚悟すらあるのなら、あるいは一つだけ希望がないでもない。 今すぐ家に帰って、嬉しそうにパリスとの結婚を承諾するのだ。そして明日の夜は一人で眠ること。朝まで誰も近づけてはならない。 寝る前にこの瓶の中身を飲み干すのだ。 たちまち呼吸は止まり、脈も打たず、身体は冷たくなり、命の兆しの全ては失われるであろう。 その仮死状態は四十二時間続き、その後は何事も無かったかのように目を覚ますのだ。 そなたの身体は実は生きたまま墓場に埋葬され、事前に連絡しておいたロミオの手によって掘り出される。 そして、彼と共にマンチュアに旅立つのだ!」 「ありがとうございます、神父様。危険は承知です。短剣で断つつもりだったこの命、死んでも気後れなどするものでしょうか」 「ならば行きなさい、これが薬瓶だ。私はマンチュアに使いを出そう。ロミオへの手紙を持たせてな」 パリスとの結婚を受け入れたジュリエットの様子に、両親は心から喜びあった。嬉々として結婚式の準備に駆け回る。 厳しいことを言っても、何より娘の幸せを願って用意した縁談であった。 そして約束の夜、ジュリエットは一人きりの寝室で瓶を開ける。 もしこの薬の効果がなければ、短剣で死ぬしかない。効き過ぎて本当に死んでしまうかもしれない。 あるいは早く目覚めて、墓地の中で窒息してしまうかもしれない。上手く行く保障なんてどこにも無い。それでも、これが再び彼と会うための唯一の手段だった。 一息に瓶の中身を飲み干し、そのまま意識を失った。 次の日の朝に家族が見たものは――――冷たくなって横たわる、愛しい娘の最期だった。 キャピュレットと夫人、そしてパリス。その他大勢の人々の嘆きと悲しみの中、ジュリエットの告別式は滞りなく行われる。 祝いの花束を、別れの花束に変えて―――― マンチュアに身を隠すロミオの元に、彼の従者が早馬で悲報を知らせに来る。 「大変に悪い報告がございます。今朝方、ジュリエット様がお亡くなりになりました。 私はお嬢様がキャピュレット家の墓地に埋葬されるのを確認してから、こうして参った次第でございます」 「どうやら僕は悪魔だか死神だかに、ジュリエットと同じくらい愛されているらしいな。 おお、ジュリエット! 君を一人にしたのは僕の最大の過ちだった。あのまま部屋に居れば、せめて後数時間は一緒に過ごせたものを。 それは、この先の君が居ない何十年という月日など比べ物にならない価値があったろうに! 待っていてくれ、今夜からは君と一緒に眠ろう」 ロミオは命を断つ方法として毒を選んだ。マンチュアに住む貧しい薬屋に目を付ける。 毒薬の販売は見つかれば死罪だという。しかし、今にも餓死しそうな貧しい薬屋ならそうも言っていられまい。 渋る薬屋に大金を握らせて強力な毒薬を手に入れる。そして、その足でヴェローナへと急いだ。 ジュリエットの眠る、暗い墓地を目指して―――― ロレンス神父の元に、ロミオに送ったはずの手紙が舞い戻る。従者がトラブルに巻き込まれて届けられなかったのだ。 ジュリエットが目を覚ますまでに後数時間しかない。ロミオが来れないと知ったらどれほど嘆くだろうか? いや、それどころではない。早く掘り出してあげなければ墓の中で本当に死んでしまう。 再びロミオに手紙を出して、彼が到着するまで彼女は自分がかくまえばいい。そう判断して神父は墓場へと急いだ。 ジュリエットの死を悲しむパリスは、彼女の墓を守ろうと寝ずの番をしていた。 高貴な家柄の者は、生前身に付けていた装飾品などを遺体と一緒に埋葬する習慣があった。 そのため、埋葬されてからしばらくは墓守を付けるのが常であった。彼女を深く愛するパリスは、自らその役を買って出たのだ。 しばらくして、闇に紛れて墓に近寄る者が現れる。ツルハシを持った墓荒し、それはロミオであった。 「貴様はモンタギューのロミオだな! ジュリエットの従兄弟の命を奪い、その悲しみにて彼女を死なせた極悪人め。 この上、遺体まで辱めようとは――――恥を知るがいい! 今度こそ追放では済まさぬ。彼女への愛にかけて、私はお前を生かしておかぬ!」 「その通り、生きてはおれぬからこそ墓地に参ったのだ。聞け! 僕のような狂人に構うな。もっと命を大切にするんだ。 誓って言うが、僕は僕自身よりもよほど君のことを大切に思っている。僕を殺す役目は僕のこの手が引き受けた。僕の理性が残っている内に早く立ち去れ!」 「それは脅しか? それとも命乞いか? どちらも聞けぬ! この場で引っ捕えてやろう!」 「邪魔立てする気か? ならば死ぬがいい!」 ジュリエットの無念を晴らそうとパリスは決闘を挑む。腕には覚えがあった。負けるとは思えなかった。 相手が、ロミオでさえなければ―――― ティボルトすら打ち負かした剣の腕。最愛の人を失った行き場の無い怒りと、死を恐れない捨て身の戦いぶり。 パリスは己の判断が間違っていたことを、腹部に走る火傷のような痛みとともに知る。 しかし最期まで、ジュリエットが愛したのはロミオだと気付くことはなかった。 パリスは最後に、ジュリエットの墓に自分も一緒に埋葬してほしいとロミオに頼む。その想いに打たれ、彼の願いを聞き届けることにした。 彼女の想いがたまたま自分に向いただけ。彼と自分の間に何の違いがあるのだろうと。 近くに眠っているであろうティボルトにも謝罪する。彼もまた、ジュリエットを家族として愛し、案じていた者だった。 彼女はきっと、全てのものに愛されすぎていたのだろう。死神にも、彼女を招きたいと願う天上の神にまでも。 「ジュリエット! 今、君の元に!」 ロミオは毒瓶を飲み干し、息絶えた。 彼女の身体の上に、折り重なるようにして―――― ロレンス神父がジュリエットの墓に到着した時、全ては終わっていた。 救出すべきジュリエットは既に掘り起こされ、今にも目覚めようと呼吸を再開していた。 彼女の側には血まみれの剣が二本打ち捨てられている。 その側にはパリス伯爵が、そしてジュリエットに重なるようにしてロミオが、それぞれ彼女よりも冷たい身体を横たえていた。 「目が覚めたか、ジュリエットよ。墓場の目覚めに相応しい、最悪の事態が起きてしまった。 夜ごとうなされる悪夢ですら、もうちょっとは救いがありそうなものだ。しかもこれは全て現実なのだ。 さあ、グズグズしていてはお前の身まで危うくなる。今はとにかくここを離れるのだ」 「ロレンス神父様、今までありがとうございました。どうかお一人でお帰り下さい。そして、私のことはお忘れになってください。 酷いですわ、ロミオ様。その毒瓶、一滴でも私に残しておいてくだされば同じ方法で死ねたものを。 懐にあるのは――――私の短剣? 良かった、これがあればあなたの元に行けます」 ジュリエットは短剣の鞘を投げ捨てる。心の臓、左胸に狙いを定めて振りかぶる。 最後に一目ロミオを見ようとして、そして―――― そこで動きが止まった。 (やっぱり……こんなの、嫌だよ!) ラブは震える手を開いて短剣を落とした。床にぶつかって乾いた音を立てる。 涙ぐんで舞台を見ていた観客がザワつく。観客だけではない。他の出演者、いや、クラスメイト全員に動揺が走る。 ジュリエットは短剣で自らの胸を貫き、ロミオと共に息絶えるはずだった。それで両家は反省し、仲直りし、エンディングを迎えるはずだった。 こんなシナリオは――――筋書きにない! ラブはせつなの上体をそっと両手で抱き寄せる。せつなの演技は完璧で、首も、腕も、ダラリと力なく垂れ下がる。 呼吸はしているのだろうが、息使いがまるで感じられない。身体が温かいことを除けば、本当に死んでいるかのようだった。 ラブの脳裏に甦る、イースの死。その絶望的な想い。 たとえお芝居でも、もう――――二度とせつなを失うなんて耐えられなかった。 「いや……。――――こんなの、嫌。ねえ、目を覚ましてよ? ロミオ、ロミオ――――!!」 ラブの絶叫が会場中に響き渡る。それでクラスメイトも覚悟を決めた。シナリオは――――たった今、変更になったのだと。 ならば、アドリブで乗り切るより他はない! 騒ぎを聞きつけた夜警の者がジュリエットを取り囲む。ジュリエットは自分に短剣を突きつけ、近寄らないでと警告する。 側に居たロレンス神父が夜警に事情を話して説得する。唯一無事な娘だけでも、まずは家に帰そうと。 家に帰っても、ジュリエットはロミオの側から離れようとしなかった。二人だけにしてくれと言って、誰も部屋に入れようとしない。 本来はこんな我がままを許すキャピュレットではない。しかし、ロレンス神父から経緯を聞き、その想いを知った今となっては引き離すこともできなかった。 ジュリエットは短剣を肌身離さず持っている。刺激すれば本当に命を絶ってしまうだろう。 娘に先立たれる絶望を繰り返す勇気は、さしものキャピュレットにもなかった。 (どうして? どうして二人は救われちゃいけないの? 悪いことをしたから? 自分勝手な愛情を貫こうとしたから?) ラブはせつなの手をとって胸に当てる。自分の心がせつなの心に届くように。 そして、自分の心臓の鼓動で、ロミオの鼓動を呼び覚まそうとするかのように。 自分の気持ちに正直に、真っ直ぐに生きた二人。その生き方は、せつなの抑圧してる願望そのものなんじゃないだろうか? 二人に救いを認めないのは、せつな自身の幸せを認めない気持ちの裏返しなんじゃないだろうか? せつなの表情に変化はない。この展開を、どんな気持ちで受け止めているのかもわからない。 持ち上げられた腕はいかなる筋肉の働きも見せず、ラブの手に見た目以上の重さで圧し掛かっていた。 ラブとせつなの意地の張り合いだった。このまま目を覚まさなければ、本来の結末と大きくは変わらない。彼女はそのつもりなのだろう。 動きのないシーンが長時間に渡って続く。クラスメイトは成す術もなく、ただ冷や冷やしながら進展を待つより他なかった。 観客は固唾を呑んで見守った。退屈したり、不満を口にする者はいなかった。 ラブの小さな体から、深い悲しみと強い決意が伝わってくる。絶対に――――あきらめないと! (あたし、馬鹿だ。ただの演技にムキになって、みんなのお芝居をメチャクチャにして……。でも――――) ラブのせつなを握る手に力がこもる。きっと、せつなは自分の過去と未来をこの物語に見ていたはず。 ずっと、様子がおかしかったから。 (本当のせつなは一体どこにいるんだろう) かつての美希の問いかけが、再びラブの脳裏によぎる。 ラビリンスに生まれ、イースとして振舞った。四つ葉町で生まれ変わり、新しい生き方を探した。 ラブに、美希に、祈里に、彼女たちの中に、新しい自分を探そうとした。 それは――――自分の意思で生きたことのない子の、悲しい性だったのではないのか? (初めて会った時からせつなは素敵な子で、何も変わってなんかいないもの) あの日から、ずっとせつなを見つめてきた。 瞳に宿る――――悲しさを。胸に隠した――――寂しさを。心に秘めた――――渇望を。 ロミオとジュリエットの恋が許されぬように、それが運命であるように、せつなに幸せは許されないのだろうか? (そう、何も変わっていない。本当のせつなはいつも心の隅っこで、いろんなものを我慢しながら震えているんだ) イースも、せつなも、パッションも同じ。メビウスの前でも、ラブや美希や祈里の前でも同じ。せつなは何も変わらない。 いつだって自分を押し殺して、こうあるべき、こう生きるべきだって、自分に言い聞かせて―――― (ねえ、せつな、わがままを言ってよ。こうしたい、あんなことがしたいって、夢を聞かせてよ) 家に来たのは、おかあさんが勧めてくれたから。美希や祈里と仲良くなれたのも、彼女たちが受け入れてくれたから。 ダンスを始めたのだって、祈里がダンスウェアまで作って誘ってくれたからだった。 せつなは、ただの一度だって自分の幸せを求めたことはなかった。 「みんなを笑顔と幸せでいっぱいにしたい」 別れの日にせつなが語った夢。それがせつなの幸せ? 違う! それは――――みんなの幸せのはず。 なりたい自分を思い描いて、その夢を実現させる。それが自分の幸せのはず。それこそが生きる意味のはずだった。 (これ以上、我慢なんてさせない。あたしは――――せつなの人生に悲劇なんて認めない!) ロミオとジュリエットが運命に殉じたように、せつなも自分の運命に殉じる覚悟でいるのなら、 ここで二人の死を認めてしまったら―――― またいつか、せつなは自分の幸せや、命まで投げ出す日が来るかもしれない。 だったら――――変えてみせる。運命すらもねじ伏せて! (どうしたらいいだろう? 確か物語では……) 御伽噺のセオリー。寝ている王女を起こす方法。この場合は王子だけど―――― 本来は、この舞台でも数箇所で用意されていたシーン。恥ずかしくて、結局全部カットしてしまったシーン。 だけどもう、これしか方法がないから―――― (きっと、お互いにファーストキスだよね。ごめんね) ラブがせつなに顔を寄せる。一瞬だけ躊躇して――――唇をそっと重ねた。 予定していた演技ではなくて、あたたかい、本物の……。 ビクン! とせつなの身体が震える。ロミオが倒れてから初めての反応。 ラブはそのチャンスを見逃さない。 「動いた! 動いたわ! ロミオ様のお体が、今――――確かに!」 ラブは両手を広げ、大きく宣言する。ロミオは死んではいなかったんだと! 様子を見守っていたクラスメイトが視線を交わして行動に移す。予測された展開の一つだった。 キャピュレット家に、ロレンス神父と共にみすぼらしい薬屋が姿を現す。 ジュリエットと、ベッドに眠るロミオの姿を認めて膝を突いて謝罪する。 「私は嘘を付きました。お金に目がくらみ、かと言って毒薬を売って死罪になるのも恐れ、偽りの薬を売りつけました」 一昔前のこと。貧窮し、ヴェローナで違法の薬を売って捕まった彼は、そこでロレンス神父と出会う。 その時、神父からある秘薬を受け取ったのだ。もし、この先毒を飲んで死にたいと願う者が現れたらこの薬を渡しなさいと。 自殺志願者の説得は難しい。でも、一度本当に死んでしまえば、その愚かさに気が付くだろうと。 もうじき四十二時間が過ぎる。ロレンス神父の言葉の通り、ロミオの頬に赤みが差す。 呼吸が戻り、指先から腕に、腕から肩に、そして両足に力が戻る。 静かに起き上がり、無言でジュリエットを見つめる。 やがて状況が理解できたのか、あるいは理由なんてどうでもよくなったのか、駆け寄ってジュリエットを抱きしめた。 「おお、ジュリエット! これは夢だろうか? それとも天国で再会でもしたのだろうか? どちらでも構わない。夢なら覚めなければそれでいい。 もし現実であるならば、今すぐここを出よう! 今度こそ僕は二度と君を離さないと誓おう」 「行きましょう! そこがマンチュアでも世界の果てでも構いません。ロミオ様のいる場所こそ私の唯一の世界なのですから」 「「その必要は無い!!」」 「その通りだ。ロレンス神父から全て聞かせてもらった」 現れたのは、ジュリエットの両親キャピュレット夫妻と、ロミオの両親モンタギュー夫妻。 そして――――ヴェローナ太守、エスカラスその人であった。 「どちらが間違っていると思う? 憎みあう両家の間で育まれた愛か? それとも、我が子の幸せすら許さぬ両家の争いか?」 「許せ、ロミオ。お前の親友のマキューシオの命を奪ったのも、ジュリエット嬢の従兄弟ティボルトを殺したのも我らだ」 「すまなかった、ジュリエット。前途あるパリス伯爵の不幸も、私たちの不毛な争いが生んだ悲劇。罪は我らが被るとしよう」 「それには及ばぬ。裁きは既にロミオに下っており、それは覆らぬ。しかし、ロミオは一度死んだ。死者にこれ以上被せる罪は非ず! 両家が心を改め、禍根を忘れ、これ以上争いを行わぬと誓うなら――――太守エスカラスの名において全てに恩赦を与えよう」 ロミオとジュリエットは初めは呆然と、そして、事情が飲み込めてからは抱き合って喜びの涙を流した。 太守の宣言した恩赦はロミオ個人に留まらず、投獄されている囚人の中で、非道な者を除く全ての囚人に適用された。 その者たちの多くは、モンタギューとキャピュレット家の争いに加担した者や巻き込まれた者であった。 時を置かずして、ヴェローナの街を挙げてのお祭りが開催される。改めて、ロミオとジュリエットの盛大な披露宴が行われたのだ。 いたるところで楽士が歌い、飲食店は支給されたお金で無料でご馳走を振舞った。 モンタギューとキャピュレットは屋敷で静かに酒を酌み交わし、ベンヴォーリオは墓石に酒を吸わせた。 マキューシオだけではなく、ティボルトやパリスにも。 それぞれの墓には、美しい花束が二つづつ供えられていた。 「恨み言は俺が代わりに聞いておいてやる。幸せにな、ロミオとジュリエット」 マキューシオの墓にもたれかかり、酒を煽るベンヴォーリオ。彼の語りとともに、静かに舞台は幕を閉じた。 “スタンディングオベーション” 観客の総立ちによる、割れんばかりの拍手とともに―――― 桃園家の二階のベランダ。お風呂上りのせつなが、秋風に吹かれながら夜景を眺める。 ミディアムレイヤーの美しい黒髪がサラサラと流れる。その表情は穏やかで、いつもより楽しげに見えた。 ラブがそっと隣に立つ。 「お疲れ様、せつな」 「お疲れ様、ラブ。でも、いくらなんでも強引よ! びっくりしたんだから」 「ごめん。せつなの顔を見てたら悲しくなって、耐えられなくなっちゃったの……」 「もういいわ、私も意地になりすぎてたもの。ごめんなさい」 ラストの変更は、計画段階から予定されていたものだった。それを拒否して原作通りの結末にこだわったのがせつなだ。 与えられた環境、決められた役割の中で精一杯頑張るのがせつなのスタイルだ。今回は確かに自分らしくなかったと反省する。 「でも、みんなよく合わせてくれたわね。一つ間違えると大変なことになってたんだから……」 「少し前のあたしたちなら無理だったよ。演劇を通じて、クラスのみんなが一つになれたからやれたんだと思う」 「それをどの口で言うのかしら?」 「ひゃい、いひゃいよ、せつな。はにゃして……」 「いたた……。せつなの口に合わせた口でだよ?」 「こらっ! それもびっくりしたんだから。あんなやり方ズルイわ!」 ひとしきり追いかけっこしてから、ラブが真剣な表情でせつなを見つめる。 「ねえ、せつな。あたしは自分の幸せも、みんなの幸せもゲットしたい。せつなはどうなの?」 「ええ、私もそれが望みよ。幸せになるために、この街に戻ってきたのだから。でも――――」 「どちらかしか選べないなら、私は迷わないわ」 「やっぱりね……。そう言うと思ったよ」 ラブはゆっくりと距離を詰めて、せつなに被さるようにして抱きつく。 少し湿った髪からシャンプーの匂いが薫る。 「だったら、せつながみんなの幸せを選ぶなら、あたしはせつなの幸せを選ぶ」 「みんなで、幸せゲットするんじゃなかったの?」 「大丈夫だよ! せつながみんなの幸せを選ぶなら、それであたしたち全員幸せゲットできるじゃない」 「だから、そんなこと言うのズルイわ……」 「一緒に夢を探そうよ。幸せは自分から、あたしたちから広げていくものだよね?」 せつなはそれ以上何も答えなかった。ただ、頬を滑る一滴の涙が、何かをせつなの心に届けたのを教えてくれた。 冷たい秋風も、身体を寄せ合う二人を冷やすことはできない。より一層に互いの温もりを引き立たせる。 困難は、乗り越えた時に大きな幸せを導いてくれる。 そう――――教えるかのように。 新-168へ
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分厚くて重い扉を何とか開けて、屋敷の中へ滑り込む。 歩き出そうとしても足に力が入らず、その場にずるずると崩れ落ちる。 焦点の定まらない目に映るのは、黒い長手袋に走る白い破れ目。 その隣りにあったはずの、緑色の小さな塊――幸せの素は、つい今しがた踏み壊して、既に無い。 頭の中の淡い煌めきの残像が、すーっと消え失せて――気が付くと、私は闇の中に居た。 息が苦しい。寒い。とてつもなく寒い。 腕が、胸が、重い痛みに悲鳴を上げる。 身体じゅうに冷たい汗が、ねっとりと絡みつく。 闇はどんどん広がって、私はどんどん小さくなる。 このまま私は、消えてしまうのだろう。 このままボロ雑巾のように、捨てられてしまうのだろう。 そんなことは、とっくに分かっていたはずなのに、もう一人の私が、冷たい胸の中で地団駄を踏む。 嫌だ。嫌だ。嫌だ。そんなこと、認めるものか。 違う。違う。違う。メビウス様のお役に立って、今度こそ・・・! そのとき、手の甲に不意にあたたかな感触を覚えて、私はぼんやりと目を開けた。 暗がりにくすんで見える、ピンク色のコスチューム。闇の中でも淡く輝く、金色のツインテール。 力の入らない私の右手を押し頂き、手袋の破れ目に口づけているのは――桃園ラブ。いや、キュアピーチ。 何をしている。離せ!何故お前がこんなところに・・・。 そう言いたいのに、私の口は鉛のように重く閉ざされ、首はガックリと垂れたまま、動くことができない。 ピーチの唇が緩やかに、傷から傷を渡って動いていく。 手の甲から、手首へ。腕へ。肘へ。二の腕へ。 ボロボロの私の身体が、まるで愛おしいものであるかのように、ゆっくりと労わるようなキスを繰り返しながら。 その唇が触れるたびに、傷口から熱が流れ込み、凍てついた血液が溶かされて、音を立てて流れ始める。 ピーチの唇はなおも動く。 今度は脇へ。肩先へ。浮き出た鎖骨の上を通って、胸の裾野から頂きへと。 心臓が、ゆっくりと、そして次第にふいごのようにせわしなく、トクトクと動き始める。 胸の先に生まれた甘美な痛みが、身体の芯に、ちろちろと揺れる小さな火を灯す。 全ての傷口から、光が――熱と疼きを伴った光が注ぎ込まれ、身体じゅうを切なくも力強く駆け巡る。 やがて身体に収まりきれなくなった光のカケラが、瞳からポロリと零れたとき――ピーチはその柔らかな両腕で、私の頭を優しくかき抱いた。 ――大丈夫だよ、せつな。 やめろ。その名前で呼ぶのはやめろ! そう叫びたいのに、まるで喉が塞がれてしまったかのように声は出ず、その代わりに、両目からポロポロと、雫が後から後から零れ落ちて・・・。 まるでそれは、今は無き幸せの素の代わりのように、床の上に滴って、きらり、きらりとわずかな煌めきを見せた。 ・・・ 「あ~あ、もう笑っちゃうくらい、傷だらけだよぉ。あたしって、やっぱり不器用だなぁ。」 十本の指にもれなく付けられた小さな傷を見ながら、ラブがはぁ~っと溜息をつく。でもその目は、気になっていたことをやっとやり遂げた、充実感に満ちている。 私は、机の上に置かれたウサピョンに目をやってから、ラブの傷口に、薬を塗り始めた。 「まったく。一体どうやったら、こんなところにまで傷ができるわけ?」 「とほほ・・・。痛っ!せつな、優しくしてよぉ。」 そう抗議するラブに、はいはい、と苦笑いしながら、私は一本一本の指に、絆創膏を貼っていく。 最後に残った傷は、左手の小指のほぼ真ん中。桜貝のような小さな爪から、二センチ中に入ったところ。 私は持っていた薬を脇に置くと、少しためらってから、両手でラブの左手を包んだ。 そのままそっと、小さな赤い傷口に口づける。柔らかくてすべすべした指の感触を、唇に感じる。 「・・・せつな?」 すぐには声が出せなかったのだろう。一呼吸置いて、驚いたように小声で問いかけるラブに、私はわざと悪戯っぽく、ニヤリと笑ってみせた。 「おまじない。ラブの傷、早く治りますように、って。」 あのとき、つかの間の夢の中で、あなたが私にしてくれたこと。 冷たく縮こまって、そのまま息絶えても不思議ではなかった私に、あなたが――あなたとの出会いがくれた、最後の光。 だからこそ、私はもう一度立ち上がって、あなたにぶつかっていくことができた。 もしもこの先、あなたが暗闇に閉じ込められたら。凍える寒さに、独り震える時があったら。 そんなときは、今度は私が、あなたに貰ったこの光の全てを、その身体に注ぎ込んであげる。 でも、傷口すらこんなにあたたかいあなたに、そんな日が来るなんて思えなくて――そんな時が、一瞬だって訪れてほしくなくて。 だからこれは、ただのおまじない。私だけの、私だけが知る、密かな誓いの証。 ありがとう、と照れ臭そうに動く、その唇にそっと微笑んで、 私は救急箱の中から、もう一枚、絆創膏を取り出した。 Fin.
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「んっ…ああっ!……ハア~ッ、また失敗しちゃった。卵焼きってどしてこんなに難しいのよ……」 「あーあ……残念だったねせつな。けど練習あるのみ。だよ!」 「どしてラブみたいに上手くできないのかしら」 「あたしだって始めは下手っぴだったんだよ?だからせつなだってきっと大丈夫!ねっ?」 ラブの心からの励ましとこぼれんばかりの笑顔。 さっきまでの悔しさを包み込むような温かさが、せつなの胸に拡がります。 「ようし!上手く巻けるようになるまで、何度でも精一杯がんばるわ!」 「その調子!」 微笑みあうふたりのそばには、山のような卵の殻が積み上がっていました……とさ。 「ふふ。二人とも頑張ってるじゃないか。」 「家計の事情もあるんだけど。」 「まあまあ。僕のお小遣いから引いといて。」 「冗談よ。でもせっちゃん楽しそうね。」 「ああ。ラブも楽しそうだね。」 「お父さんお母さん、お待たせっ! 今晩のメインディッシュは、せつな特製!くるくるだし巻卵だよっ!」 「まあ、せっちゃん!とっても上手になったじゃない!」 「だけどメインってことは、サブのおかずがあるわけで…… 他のおかずはどこにあるんだい?」 圭太郎に聞かれ、にこやかに微笑みをたたえたラブが指差したのは、お皿に乗せられた大きな黄色い塊。 それは綺麗に巻かれなかった、だし巻卵の成れの果てたちだった。 「これが……サブ?」 「お父さんお母さんごめんなさい……卵焼きに夢中で、 気がついたら他のおかずを作る時間が無くなってたの」 「ささ、せつなの努力の成果なんだから、文句言わずに食べる! それに、見映えはアレでも、味はラブさんの保証つきだよ!」 「どれどれ……ん!旨い!」 「あらホント!お父さんのお弁当のおかずにピッタリ。 明日からせっちゃんに毎朝お願いしようかしら」 「嬉しい!任せて、お母さん!」 「せつなの卵焼きで、皆幸せゲットだね!」 翌日。 「お!桃園さんは今日も愛妻弁当ですか。うらやましいなあ」 「実は……下の娘が初めて作ってくれましてね」 かぱっ。 圭太郎が蓋を開けると、唐揚げやブロッコリー、ミニトマトの間におさまった、せつな特製くるくるだし巻卵が。 そして、御飯の上には桜でんぶで大きなハートマークが……! 「幸せゲットだぜ!」 「あ、いっけない。お父さんに渡したお弁当、ラブのと間違えちゃった」